ドンペリドン(ナウゼリン)の特徴、使い方や注意点、作用機序や指導のポイントについて

消化器

ナウゼリンの主薬であるドンペリドンは、1974 年ベルギーの Janssen 社でハロペリドールやプロクロルペラジン等の神経遮断剤に認められる強力な制吐作用に注目し、合成されたベンズイミダゾロン系の化合物です。

血液-脳関門を通過しにくく選択的な制吐作用を示すのみならず、胃運動亢進作用、胃内容排出促進作用等を併せ持つことが確認されています。抗精神病薬の制吐作用から開発につながっており、血液ー脳関門を通過しにくいとはいえ、錐体外路症状を生じることもあるので、かなり稀ではありますが注意が必要です。

特徴

・抗ドパミン作用をもち、   CTZ(chemoreceptor trigger zone)に作用することで強い制吐作用を示します。また、胃運動、胃・十二指腸協調運動を促進し、胃排出能の正常化、慢性胃炎、胃切除後症候群、薬剤(抗悪性腫瘍剤、レボドパ製剤)投与時等の消化器症状、小児の周期性嘔吐症、上気道感染症等に伴う消化器症状に効果が認められています。

・重大な副作用にはショック、アナフィラキシー、錐体外路症状、意識障害、痙攣、肝機能障害、黄疸があります。

・妊婦又は妊娠している可能性のある女性には禁忌なので、妊娠悪阻(つわり)などへの使用はできません

 

それでは、ここからはドンペリドン(ナウゼリン)について、基本的な情報から、一つ一つ細かく解説していきます。

 

【基本情報】

効能・効果
下記疾患および薬剤投与時の消化器症状(悪心、嘔吐、食欲不振、腹部膨満、上腹部不快感、腹痛、胸やけ、あい気)
成人:慢性胃炎、胃下垂症、胃切除後症候群、抗悪性腫瘍剤またはレボドパ製剤投与時
小児:周期性嘔吐症、上気道感染症、抗悪性腫瘍剤投与時
乳幼児下痢症(ナウゼリン坐剤、ナウゼリンドライシロップのみ)

【錠剤、散剤】
用法・用量
成人: 1回10mgを1日3回食前
レボドパ製剤投与時は1回5~10mg1日3回食前

小児: 1日1~2mg/kg 1日3回食前
1日投与量は30mgを超えないこと

6才以上の場合1日最高用量は1mg/kgを限度とする

この用量設定では年齢の低い子の方が用量が多くなるという気持ちが悪い現象が起きることがあります。6歳の平均体重は20kg程度です。つまり、6歳で20kgの最高用量は1日20mgとなるのに対して、4歳で体重15kgの場合1日30mgということもあり得るわけです。ただ、効果と安全性の確認はされており、同程度のバイオアベイラビリティ(同じ用量を服用した時に体に吸収される量は同程度)である坐薬の使用量を考えるとあまり神経質になる必要もないのかなと思います。

【坐剤】
成人:1回60mgを1日2回直腸内投与
3才未満:1回10mgを1日2~3回直腸内投与
3才以上:1回30mgを1日2~3回直腸内投与

各剤型のTmaxと半減期
ナウゼリン錠
Tmax 1hr(10mg単回投与)
半減期 11hr(10mg単回投与)

ナウゼリンドライシロップ
Tmax 0.5hr (10mg単回投与)
半減期 9hr(10mg単回投与)

ナウゼリン坐剤30mg・60mg
Tmax 2hr
半減期 7hr

腎機能による調整 なし
肝機能による調整 なし
食事の影響 あり
併用禁忌薬 なし
禁忌疾患等 あり

【作用機序】

上部消化管並びにCTZ(化学受容器引き金帯)に作用し、抗ドパミン作用により薬効を発現する。

効果発現時期

ナウゼリン錠:Tmax 1hr(10mg単回投与)
ナウゼリンドライシロップ:Tmax 0.5hr(10mg単回投与)
ナウゼリン坐剤30mg・60mg:Tmax 2hr

Tmax(最高血中到達時間)からは1時間程度で血中濃度は上昇してくるため効果もそれに伴って現れるのではないかと推察されます。

ナウゼリンの食前投与っていつのこと?

ナウゼリンの開発時における臨床試験は全て食前15~30分で検討されその有用性が確認されています。この食前15~30分を目安にしましょう。

ナウゼリン坐剤の投与間隔はどのくらい空ければいい?

半減期と1日の投与回数から考えると7-8時間程度は空ける事が望ましいと考えられますが、小児で吐気があって7時間も待てないという状況もあると思います。

そういう時でも最低4時間は空けて使用し、1日の使用回数3回までは守りましょう。

ナウゼリン経口剤はなぜ食前投与なのか?

理由としては下にあげる3点です。

・ナウゼリンを食前と食後に投与して比較すると食後では吸収がやや遅れ、最高血漿中濃度到達時間(Tmax)が延長したという報告があること

・食事によって胃排出が遅延することで、消化管からのナウゼリンの吸収が遅くなり期待する効果が得られない可能性があること

・吐き気、食欲不振、胃のもたれ感などの症状は、消化管運動の失調・低下と連動した食物の消化管滞留が挙げられ、ナウゼリンは消化管運動改善作用と制吐作用をあわせ持つことから、食事を摂る前に服用した方がこれらの症状も軽減され合理的であること

そもそも吐き気が食事により引き起こされる可能性があり、また食事によって薬の吸収が遅れてしまい、効果が薄れてしまう可能性があるため食前投与となっているわけです。やはり食後の服用はお勧めできません。

できませんが…食事をしてしまったけど、吐気があってやむを得ず食後に服用したい場合、投与は可能とは思いますし、効果も得られる可能性もあると推定できます。

制酸剤、H2ブロッカー、PPIなど本剤の消化管からの吸収を低下させることがあるので、併用には注意が必要となります。

ナウゼリン坐剤が経口剤より用量が高いワケ

実は、経口剤と坐剤を対比した厳密な用量試験に基づいて設定された訳ではありません。

各々の使用対象となる疾患の消化器症状の程度や性質を考慮して実施された臨床試験の結果に基づいて決められたものとのことです。成人に用いる60mg坐剤が当初胃・十二指腸手術後の消化器症状のみに適応を得ており、これがもとになり用量設定がされていったと考えます。

つまり、とりあえずそれぞれの臨床試験でそれぞれの割り当てた患者の状態を考えて投与量設定をした結果、それぞれの用量で効果が認められたので今のような用量設定になっているだけで、経口剤と坐薬の等価がどの程度か分からないということです。

ちなみにバイオアベイラビリティ(投与量のどれくらいの量が体の中に吸収されるか)はドンペリドン60mgを絶食下単回直腸内投与で12.4%、絶食下単回経口投与で12.7%とのデータもあり、このデータからは経口薬も坐薬も同じ量で同じくらいの量が体の中に入るといえます。そう考えると坐薬の投与量って多いような気もします。

が、それぞれの量で効果と安全性の確認はされているのでそこまで気にする必要はないのかなと思います。

レボドパ製剤と効果が逆なのにレボドパの悪心、嘔吐に対して使用されるワケ

レボドパ製剤の悪心、嘔吐は、消化管内でレボドパが分解され生じたドパミンの作用が主な要因と考えられています。

ナウゼリンは消化管内で抗ドパミン作用を示し、血液-脳関門は通過しにくいため、脳内でドパミンに変換されて作用を示すレボドパの効果を減弱させることは考えにくいです。

【副作用と対策】

主な副作用は下痢です。ひどい場合は水分や電解質の補給をし、脱水に注意しましょう。

錐体外路症状(0.1%未満)が稀に生じるとがあります。
後屈頸、眼球側方発作、上肢の伸展、振戦、筋硬直等の錐体外路症状があらわれた時は投与を中止し、症状が強い場合には、抗パーキンソン剤を投与などが行われることもあります。

腎機能による調整

なし

肝機能による調整

なし

食事の影響

ナウゼリン60mg(10mg錠6錠)を食前と食後90分に投与での比較ですが、食後では吸収がやや遅れ、最高血漿中濃度到達時間は(Tmax)、投与後0.5~2時間(この間定常状態)に延長したとの報告があります。

相互作用

主な代謝酵素:CYP3A4

併用禁忌

なし

併用注意

フェノチアジン系精神神経用剤(プロクロルペラジン、クロルプロマジン、チエチルペラジン等)、ブチロフェノン系製剤(ハロペリドール等)、ラウオルフィアアルカロイド製剤(レセルピン等)

フェノチアジン系精神神経用剤、ブチロフェノン系製剤は中枢性の抗ドパミン作用を有し、ラウオルフィアアルカロイド製剤は中枢でカテコールアミンを枯渇させる。一方、ドンペリドン(ナウゼリン)は血液-脳関門を通過しにくいが強い抗ドパミン作用を有するため、内分泌機能調節異常又は錐体外路症状が発現しやすくなる。

ジギタリス製剤(ジゴキシン等)

ナウゼリンの制吐作用によってジギタリス製剤飽和時の指標となる悪心、嘔吐、食欲不振症状を不顕化することがあるため、ジギタリス製剤の血中濃度のモニターを行う。

抗コリン剤(ブチルスコポラミン臭化物、チキジウム臭化物、チメピジウム臭化物水和物等)

抗コリン剤の消化管運動抑制作用が本剤の消化管運動亢進作用と拮抗するため、ナウゼリンの胃排出作用が減弱することがあります。症状により一方を減量、中止する。又は必要に応じて間隔をあけて投与します。

制酸剤(H2受容体拮抗剤:シメチジン、ラニチジン等、プロトンポンプ阻害剤:オメプラゾール等 )

胃内pHの上昇により、本剤の消化管吸収が阻害され、ナウゼリンの効果が減弱するおそれがあるので、両剤の投与時間を考慮する。

CYP3A4阻害剤(イトラコナゾール、エリスロマイシン等)

強力又は中程度のCYP3A4阻害作用により代謝が阻害され、ナウゼリンの血中濃度が上昇します。また、エリスロマイシンとの併用においては、QT延長の報告あり。

イトラコナゾール
外国人健康成人15例に本剤(経口剤、20mg注)、単回投与)とイトラコナゾール(200mg/日、5日間反復投与)を併用投与したとき、本剤のCmax及びAUC0-∞はそれぞれ2.7倍及び3.2倍

エリスロマイシン
外国人健康成人32例に本剤(経口剤、10mg/回、1日4回)、5日間反復投与)とエリスロマイシン(500mg/日、1日3回、5日間反復投与)を併用投与したとき、本剤のCmax及びAUC(AUCτ及びAUC12h,ss)はそれぞれ約142%及び約167%増加した。
同試験において、QT延長が認められ、その最大値(95%信頼区間)は本剤単独投与では7.52ms(0.602-14.435)、エリスロマイシン単独投与で9.19ms(1.678-16.706)、併用投与
では14.26ms(8.014-20.505)であった。

禁忌疾患等

・妊婦又は妊娠している可能性のある女性
・消化管出血
・機械的イレウス、消化管穿孔の患者

・プロラクチン分泌性の下垂体腫瘍(プロラクチノーマ)の患者(抗ドパミン作用によりプロラクチン分泌を促す。)

妊婦・授乳婦への影響

妊婦又は妊娠している可能性のある女性は禁忌となっています。

動物実験(ラット)で骨格、内臓異常等の催奇形作用が報告されているためです。妊娠中に吐き気がするからといって、使ってはいけません。

授乳婦に対しては決まり文句です。

治療上の有益性及び母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続又は中止を検討することとなっています。投与する場合は大量投与を避けること。動物実験(ラット)で乳汁中へ移行することが報告されているようです

ヒトにおいては、ナウゼリンの投与中止後4日程度で、血清中からほぼ全量消失されますが、乳腺や乳汁中には残存する可能性があるため授乳は4日目以降で、中止期間中に搾乳していない場合は中止後初めての母乳は廃棄することが望ましいと考えられます。

使用上の注意点

・間脳の内分泌機能調節異常、錐体外路症状等があらわれることがあるので、有効性と安全性を十分考慮のうえ使用。

・眠気、めまい・ふらつきがあらわれることがあるので、自動車の運転等危険を伴う機械操作に注意させる

・特に1才以下の乳児には用量に注意し、3才以下の乳幼児には7日以上の連用を避け、脱水状態、発熱時等では特に投与後の患者の状態に注意する。小児において錐体外路症状、意識障害、痙攣が発現することがあります。

指導のポイント

・用法用量の説明

【錠剤、散剤】
成人: 1回10mgを1日3回食前
レボドパ製剤投与時は1回5~10mg1日3回食前

小児: 1日1~2mg/kg 1日3回食前

【坐剤】
成人:1回60mgを1日2回直腸内投与
3才未満:1回10mgを1日2~3回直腸内投与
3才以上:1回30mgを1日2~3回直腸内投与

・坐薬が挿入すぐに出てきた場合の対応

挿入後すぐに原形をとどめた固形の坐剤が排出された場合

肛門括約筋の間に挟まっているだけの場合が多く、直腸内には入っていないことが多いことから再度挿入

挿入後原形をとどめず液状物で排出された場合や便とともに坐剤が排出されたか確認できない場合

2時間程度症状を観察してから、必要に応じて再投与を検討

・坐薬を使用するのを忘れたときの対応

症状が激しい時

気がついた時にできるだけ早く使用します。次回使用までは7~8時間あけるようにしましょう。

指定されていた次の使用時間が近く7~8時間ない場合は使用せずに、さらに次の使用時間に1回分を使用します。

小児における坐剤の開発試験での投与法は、1回1個を朝・昼・夜の3回投与し、1日の投与量は3個とかわりませんが、初日のみ4時間以上間隔があいていれば投与しても良いとされていたとのことです。この開発試験でも安全性に問題は認められていないことから、副作用の観点から最低でも4時間以上は投与間隔をあけることが望ましいと考えられます。

・経口剤の飲み忘れ時の対応

ナウゼリンの経口剤を飲み忘れた場合は、症状が安定しているようで飲み忘れた分は服用せず、次の服用時に決められた量を服用しましょう。2回分を一度に飲んではいけません。

・小児では連日投与は避ける

適応症状は3~4日以内にはほとんどが改善・消失するとされており、それ以上連用しても効果がない。嘔吐などの症状が連日続く場合には、他に重大な疾病が内在している可能性について十分な精査をする。

・錐体外路症状(0.1%未満)が稀に生じるとがあるため、後屈頸、眼球側方発作、上肢の伸展、振戦、筋硬直等の錐体外路症状に注意する。

・抗コリン剤との併用確認

抗コリン剤の消化管運動抑制作用がナウゼリンの消化管運動亢進作用と拮抗するため、併用注意。
やむを得ず併用する場合は、ナウゼリンを食前に服用し抗コリン剤を食後に服用するなど服用時間をずらすなどの対応。胃排出速度などに大きな影響はないとの報告もあり、併用して効果に問題がないか確認するのが現実的なところか。

・制酸剤、H2受容体拮抗剤やプロトンポンプ阻害剤との相互作用確認

ナウゼリンを食前に投与し、食後の胃内容物が減少して胃内pHの低下した時期に制酸剤、H2受容体拮抗剤やプロトンポンプ阻害剤を投与する。ただ、プロトンポンプ阻害剤など、作用時間が長いものに関しては投与時間を少しずらしたところで相互作用は避けられないことが考えられます。効果を評価していきましょう。

ナウゼリンに関連する問い合わせ対応例

常温保存と知らずに冷所に保存してしまった。大丈夫か?

冷蔵庫に保存しても差し支えありません。ただ、冷蔵庫から取り出してすぐに使用した場合、冷たい事が刺激となり排便しやすくなる可能性もあります。使用前に室温に戻すことをお勧めます。

子どもの吐き気が強く、一度使って1時間くらいたつが効果がでない。坐薬をもう一回使用してもよいか?

一般的には7-8時間くらいは空けて使用します。ただ、どうしても我慢できないようであれば少なくとも4時間あけて使われてください。

また、吐き気などの症状が薬を使用しても3-4日続いている場合はナウゼリンでは効かないと考えられますので受診をお勧めします。

ナウゼリン経口剤を飲み忘れてしまったが、どうすればよいか?

症状があまりないようであれば、飲み忘れた分は服用せず、次の服用時に決められた量を服用してください。2回分を一度にのまないようにお願いします。

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