ブロナンセリンテープ(ロナセンテープ®)の特徴、使い方や注意点、作用機序や指導のポイントについて

抗精神病薬

抗精神病薬初の貼付剤であるロナセンテープについて、解説していきます。相互作用をあまり気にしなくていいことや、血中濃度の安定といった面が貼付剤の大きなメリットに思いますが、統合失調症という疾患を考えると、薬剤の管理としては飲み薬よりも一手間かかるように思えるため服薬コンプライアンスの維持にはあまり貢献できないように個人的には思いますが、初の貼付剤ということで期待していきたいと思います。

【基本情報】

効能・効果:統合失調症
用法・用量 :1日1回40mg 貼付
貼付部位:胸部、腹部、背部
最大用量 1日1回80mg 貼付

Tmax 25.3(40mg24hr単回貼付)
半減期 41.9(40mg24hr単回貼付)

腎機能による調整 なし
肝機能による調整 なし
食事の影響 なし
併用禁忌薬 あり
禁忌疾患等 あり

貼り方と貼付時の注意点

まずは貼り方からです。

貼る時間は1日の中で毎日貼りかえやすい時間を決めましょう。同じ時間を目安に24時間毎で貼りかえます。朝であれば起きて着がえる時などに貼り、夜であれば入浴前にはがし、入浴後に貼るなどすると良いでしょう。

貼る場所は胸・お腹・背中のいずれかです。ただし、毛量の多い場所などは避けた方が良いでしょう。その他にも、衣服などで隠れる場所にし(皮膚症状予防のため)、傷や湿疹・皮膚炎などがある場所クリームや軟膏等をぬったばかりの場所は避け(はがれやすくなる)、伸縮性はないため、体の動きの多い場所(肩甲骨の上など)も避けた方が良いでしょう。貼りかえる時は前回とは異なる場所に新しいテープを貼ります。

貼り方
①貼付部位をタオル等でふいて水分や汗を取り清潔にする
②貼る直前にテープを包装から出す(包装袋の3ヵ所を番号順に切り取り、ゆっくりと開けて中のテープを取り出す)
③透明のフィルム(ライナー)を片方だけはがし、片方のみ貼る
④貼った部分を押さえながら、もう片方のライナーをはがして残りのテープを貼る

普通の貼付剤です。他の貼付剤と張り方に違いは特にありません。

貼付時の注意点
・貼りかえる時は身体からすべてのテープをはがしたことを確認する
・2枚以上貼る場合はテープが重ならないようにする
・ハサミなどで切って使用しない

貼付後の注意点
・テープを貼っている間とはがした後1~2週間は、貼った場所を衣服でおおうなどして、直射日光があたらないようにする(光過敏症発症の可能性あるため)

貼った場所に赤みや湿疹、かゆみが出ることがあるので、症状が強い場合は相談する

テープ(貼付剤)がはがれてしまったら

・テープが少しはがれた場合はサージカルテープなどでテープのふちを押さえて補強する
・完全にはがれて貼り続けることが難しい場合は新しいテープを貼付し、次の貼りかえは、新しいテープの貼付後24時間を目安にする。

【作用機序】

ドパミンD2 受容体サブファミリー(D2、D3)及びセロトニン5-HT2A受容体に対して親和性を示し、完全拮抗薬として作用します。

また、アドレナリンα1、ヒスタミンH1、ムスカリンM1 及びM3 等の受容体に対してもわずかに親和性を示します。これらはドパミンD2受容体及びセロトニン5-HT2A受容体への親和性と比較するとほとんど作用しないといってもいい程度です。

ですので、主な作用はドパミンD2受容体及びセロトニン5-HT2A受容体への選択的な拮抗作用といえます。

効果発現の評価時期

半減期が41.9hrであることから、血中濃度が定常状態に達するまでには7日~10日程度かかることが予想されます。また、国際共同第3相試験では1週、2週、6週で評価されており、2週目以降で効果が見うけられていることから2週間程度は少なくとも効果発現を評価をするまでに必要と考えられます。

【主な副作用と対策】

主な副作用は国際共同第3相試験ではパーキンソン症候群(14.0%)、アカシジア(10.9%)、適用部位紅斑(7.7%)、国内第3相長期投与試験では適用部位紅斑(22.0%)、プロラクチン上昇(14.0%)、パーキンソン症候群(12.5%)、適用部位そう痒感(10.0%)、アカシジア(9.0%)、不眠(8.0%)等

錐体外路症状があらわれた場合には必要に応じて減量又は抗パーキンソン薬の投与等を行います。

皮膚症状出現時は症状が強い場合は中止、ステロイド軟膏などを併用する場合もあります。

皮膚症状を予防するためにできること
貼る場所を毎回変える
・貼っている間とはがした後1~2週間は、貼った場所に直射日光があたらないようにする
・はがす時は、ゆっくりていねいにはがす
・普段から保湿剤などで日常的な皮膚ケアを行う
・テープをはがした後、皮膚にテープの粘着成分が残って気になる場合は、ベビーオイルやぬらした布(タオル等)などでやさしくふき取る
皮膚は優しく洗う
強い洗浄剤やかたい素材でこすると皮膚をいためてしまう可能性があるため、汗や汚れを落とす時は、洗浄剤をよく泡立て、手や柔らかいタオルなどでやさしく洗ってください。

経口剤と貼付剤の切り替え方法

ブロナンセリンの錠剤から貼付剤へ切り替える場合

錠剤の服用するタイミングで貼付剤へ切り替えます。

例えば、ブロナンセリン錠が朝・夕に服用していたとすると、次の日から切り替える場合は翌日の朝から貼付剤を使用し、1日1回朝貼付となります
朝の錠剤を服用し、次から切り替える場。合は、夕に貼付剤を使用し、その後は1日1回夕貼付となります。

用量の目安としては、ブロナンセリン錠最終投与量/日:貼付剤開始貼付量/日=1:5です。
錠剤を8 mg/日で服用していれば、40mg/日の貼付剤を使用、錠剤を12mg/日で服用していれば60mg/日の貼付剤を使用、錠剤を16mg/日で服用していれば80mg/日の貼付剤を使用するといった感じになります。貼付剤の最大用量は1日1回80mgなので、もちろん超えないように注意しましょう。

ブロナンセリン貼付剤から錠剤へ切り替える場合

錠剤の用法・用量に従って1回4mgの1日2回食後から開始し、徐々に増量します。

ブロナンセリン経口製剤と本剤を同時期に投与することにより過量投与にならないよう注意することとされているため、貼付するタイミングに少し気を使いますが、40mgの貼付剤を反復投与時した際のTmaxが24hrであることを考えると、貼付剤を貼った状態で錠剤を服用しなければ良いのではないかと思います。

肝機能による用量調整

用量調整の具体的な記載はないが、肝酵素により代謝されるため、肝機能障害がある場合は慎重に投与。

食事の影響

貼付剤のため影響なし。小腸及び肝臓での初回通過効果を受けないことから消化管におけるCYP3A4の阻害作用を持つ薬剤やグレープフルーツなどの相互作用を受けない。

併用禁忌薬

アドレナリン(ボスミン)を投与中の患者(アドレナリンをアナフィラキシーの救急治療に使用する場合を除く)はアドレナリンの作用を逆転させ、重篤な血圧降下を起こすことがあるたね禁忌となっている。

アドレナリンはアドレナリン作動性α・β受容体の刺激剤であり、ブロナンセリンのα受容体遮断作用により、β受容体刺激作用が優位となり、血圧降下作用が増強されるためである。

アゾール系抗真菌剤(外用剤を除く)
イトラコナゾール(イトリゾール)
ボリコナゾール(ブイフェンド)
ミコナゾール(フロリード)
フルコナゾール(ジフルカン)
ホスフルコナゾール(プロジフ)
HIVプロテアーゼ阻害剤
リトナビル(ノービア)
インジナビル(クリキシバン)
ロピナビル・リトナビル配合剤(カレトラ)
ネルフィナビル(ビラセプト)
サキナビル(インビラーゼ)
ダルナビル(プリジスタ)
アタザナビル(レイアタッツ)
ホスアンプレナビル(レクシヴァ)
テラプレビル(テラビック)
コビシスタット(スタリビルド)

これらの薬剤はブロナンセリンの主要代謝酵素であるCYP3A4を阻害するため、クリアランスが減少し、ブロナンセリンの血中濃度が上昇し、作用が増強する可能性があるため禁忌とされている。

相互作用

主な代謝酵素はCYP3A4であるが、貼付剤は初回通過効果を受けないため、ブロナンセリン錠に比べ、CYP3A4 阻害剤・誘導剤併用時の薬物動態への影響は小さいと考えられます。

併用注意薬

CYP3A4 阻害作用を有する薬剤
エリスロマイシン
クラリスロマイシン
シクロスポリン
ジルチアゼム等
ブロナンセリンの血中濃度が上昇し、作用が増強するおそれがあるので、必要に応じて減量あるい
は低用量から開始するなど慎重に使用。

ブロナンセリン経口剤の国内での薬物相互作用臨床試験において、エリスロマイシンとの併用によりブロナンセリンのAUC及びCmaxがそれぞれ2.7倍及び2.4倍に増加したとの報告があります。クラリスロマイシン、シクロスポリン、ジルチアゼムについては、文献調査の結果、併用したときに他のCYP3A4基質薬剤のCmaxを4倍以上に上昇させることが報告されています。

ただし、これはあくまで錠剤との相互作用のデータであり、貼付剤では影響がこれよりも小さいことが予想されます。

CYP3A4 誘導作用を有する薬剤
フェニトイン
カルバマゼピン
バルビツール酸誘導体
リファンピシン等
CYP3A4 を誘導するため、クリアランスが増加し、ブロナンセリンの血中濃度が低下し、作用が減弱するおそれがあります。

CYP3A4誘導作用のある薬物(フェノバルビタール、アモバルビタール又はカルバマゼピン)との併用によってブロナンセリンの経口クリアランスが増加し、AUCが約0.4倍に低下することが推察されています。

グレープフルーツジュースなどの影響は?

錠剤(経口製剤)と異なり消化管での代謝阻害の影響を受けないため、グレープフルーツジュースなどによる相互作用はありません。

禁忌疾患等

・昏睡状態の患者
・バルビツール酸誘導体等の中枢神経抑制剤の強い影響下にある患者

妊婦・授乳婦への影響

妊婦・産婦への投与

妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ使用すること。妊娠中の投与に関する安全性は確立していない。

有益性を考慮し投与となっています。

妊娠後期に抗精神病薬が投与されている場合に新生児に哺乳障害、傾眠、呼吸障害、振戦、筋緊張低下、易刺激性等の離脱症状や錐体外路症状があらわれたとの報告もあります。

統合失調症で異常体験が続いている中で、本人や周りが出産の前兆に気が付くのは難しい可能性もあり、生むまでももちろんそうですが、出産時、出産後どうするのか、考えることはたくさんあります。

そんな中で統合失調症の症状緩和、症状の再燃の予防として使用する薬剤の投与をどうしていくのかは、統合失調症の経過にもよるため一概には言えませんが、できる限り切れる薬剤は切り、最小の薬剤で治療を続けていくというのがよくとられる選択肢ではないでしょうか。

授乳婦等への投与

授乳中の婦人に使用する場合には、授乳を中止させること。〔動物実験(ラット)で乳汁中への移行が報告されている

注意点

・心血管系疾患、低血圧、又はそれらの疑いのある患者は一過性の血圧降下があらわれることがあるため注意

ブロナンセリンはα受容体にもわずかですが親和性があり、特に服用し始めに血圧が低下することがあります。

・パーキンソン病のある患者は錐体外路症状が悪化するおそれ

抗精神病薬はドパミンD2受容体遮断作用があり、パーキンソン病治療薬とは相反する作用なので、パーキンソン病患者ではパーキンソン病症状と精神症状のバランスをみながら調整が必要となります。

・てんかん等の痙攣性疾患、又はこれらの既往歴のある患者では痙攣閾値を低下させるおそれあり

・自殺企図の既往及び自殺念慮を有する患者は症状を悪化させるおそれがある

・糖尿病又はその既往歴のある患者、あるいは糖尿病の家族歴、高血糖、肥満等の糖尿病の危険因子を有する患者において血糖が上昇することがある

禁忌の薬剤以外はほとんど気にしたことはありませんが、耐糖能異常発現に関連していると考えられているムスカリンM3受容体等への作用が少なからずあり、耐糖能異常に係る重篤な症例報告もあるため念のため注意しながら経過を見ます。

・眠気、注意力・集中力・反射運動能力等の低下が起こることがあるので、本剤使用中の患者には自動車の運転等危険を伴う機械の操作に従事させないように

・興奮、誇大性、敵意等の陽性症状を悪化させる可能性あり

このような明らかな症状の悪化が見受けられた場合は切り替えが行われます。

指導のポイント

・貼付方法の説明

・副作用の説明と確認

お腹がはる、著しい便秘、吐き気・嘔吐、 筋肉の痛み、手足のしびれ・こわばり、低ナトリウム血症に伴う症状(頭痛、悪心、嘔吐、意識障害、痙攣など)、突然の高熱、さむけ、のどの痛み、胸の痛み、突然の息切れ、発熱、足のむくみ・痛み、体がだるい、吐き気、食欲不振、口渇、多飲、多尿、頻尿等。

重大な副作用の症状だけでもこれだけあります。症状の書かれた用紙などを用いて簡単に説明し、身体の具合に変化が生じたら相談するように指導するのがいいでしょう。

・自動車の運転など、危険をともなう機械の操作はしないように指導

・飲酒は控えてもらう
アルコールはこのお薬の作用を強めることがあるため。

病棟でのモニタリングポイント

・重大な副作用に伴う症状がないかの確認

腸管麻痺
お腹がはる、著しい便秘、吐き気・嘔吐など

横紋筋融解症
筋肉の痛み、手足のしびれ・こわばり

抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)
低ナトリウム血症に伴う症状(頭痛、悪心、嘔吐、意識障害、痙攣など)

無顆粒球症、白血球減少
突然の高熱、さむけ、のどの痛み

肺塞栓症、深部静脈血栓症
胸の痛み、突然の息切れ、発熱、足のむくみ・痛み

肝機能障害
体がだるい、吐き気、食欲不振

高血糖、糖尿病性ケトアシドーシス、糖尿病性昏睡
口渇、多飲、多尿、頻尿等
このような症状があらわれた場合は高血糖や糖尿病の悪化の可能性があり注意が必要ですが、特に口渇などはプラセボでもよく起こる副作用、つまり、日常的にもよくある症状なので、本人の訴えだけでなく、血糖値の値の推移や、飲水量、トイレの回数や尿量など具体的な数値で表せるものでの評価も大切です。心配しすぎな場合はそういった具体的な数値で評価し、安心させてあげましょう。

・錐体外路症状の確認

・検査値(血球、CPK、肝酵素、血糖値、Naなどの電解質、Creなど)

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