新型コロナウイルス(COVID-19)の薬物療法情報

COVID-19

ファビピラビル(商品名:アビガン)、レムデシビル、ヒドロキシクロロキン(商品名:プラケニル)、リン酸クロロキン、ロピナビル/リトナビル配合剤(商品名:カレトラ)、インターロイキン-6(IL-6)受容体阻害剤などの新型コロナウイルスの治療薬として臨床試験が行われている薬剤、シクレソニド(商品名:オルベスコ)、ナファモスタット(商品名:コアヒビター、ナオタミン、ブイペル、フサン、ロナスタット)、カモスタット(商品名:カモタット、フオイパン)などの有効である可能性があるとして治療薬の候補としてあがってきている薬剤、さまざまな薬剤が治療に使われてきていますが、現時点で分かる範囲で解説していきます。また、対症療法として使用されるであろう薬剤に関しても最後にふれたいと思います。

ジョン・ホプキンス大学の集計では全世界で新型コロナウイルスの感染者が300万人近くになり、死者は20万人を超えています。そして、今もなお感染者は増え続けています。

一日でも早く治療薬やワクチンを開発しようと多くの製薬企業、研究者をはじめ、世界中の人々が取り組んでおり、COVID-19の抗ウイルス治療のために多くの治験薬が検討され、臨床試験が行われていますが画期的な薬剤はまだ見つかっていません。

臨床症状が行われている主な薬剤の特徴と試験結果の情報や効果が期待されている薬剤をまとめています。

インフルエンザの治療薬として息をひそめていたファビピラビル

薬剤名
一般名:ファビピラビル
英語:Favipiravir
商品名:アビガン

日本の製薬会社が開発したインフルエンザの治療薬「アビガン」は、国内では愛知県の藤田医科大学病院などで患者に投与する臨床研究が始まっています。中国政府は臨床研究で治療効果が認められたとして、アビカンを政府の診療指針に正式に採用しました。

ファビピラビルは新型もしくは再興型インフルエンザに対する薬剤でRNAポリメラーゼ阻害剤です。ウイルスのタンパク質合成や遺伝子の複製を妨げることによりRNAウイルスに対して効果を示すと考えられます。

日本ではその利用は他の抗インフルエンザウイルス薬が無効又は効果不十分な新型又は再興型インフルエンザウイルス感染症が発生し、そのインフルエンザウイルスの対策として使用すると国が判断した場合にのみ、患者への投与が検討される医薬品とされていて、通常のインフルエンザ治療で使用することはありません。

使用する際には催奇形性がある点には特に注意が必要です。

妊婦には禁忌であり、妊娠に関わらず、男女ともに避妊を徹底する事が求められます。また、影響は定かではありませんが母乳への移行は認められ、授乳も中止です。

承認時の主な副作用は尿酸値上昇、下痢、好中球減少、ALT、ASTの上昇などとなっています。

ファビピラビルのCOVID-19治療の臨床試験の一つでは、非重症疾患(酸素飽和度93%以上を含む)の患者を対象とした研究において、ウイルスクリアランスの速度の上昇とX線検査上での改善が認められています。ただ、この臨床試験はファビピラビル以外の効果因子によるものの影響も考えられるため、さらなる詳しい研究が必要と考えられます。

個人的には剤型は錠剤であり、自宅療養を命じられた場合や、入院でも経口摂取が可能な軽度から中等度の患者に向いていると考えます。

ただ、有効成分の安定性や製剤学的な側面からは粉砕は可能と考えられます。

いずれにせよ、効果はまだ研究段階ですので結果待ちです。

エボラ出血熱の治療薬としてアメリカで開発中のレムデシビル

薬剤名
一般名:レムデシビル
英語:Remdesivir

レムデシビルはギリアドサイエンスがアメリカでエボラ出血熱の治療薬として開発が進めていた抗ウイルス薬です。

レンデシビルは、RNA転写の早期終結を介して阻害するウイルス複製広い抗ウイルス活性を有する新規ヌクレオチドアナログの点滴薬で、in vitroと動物実験の両方において、今問題となっている新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)と、それに関連するコロナウイルス(SARSおよびMERS-CoVを含む)に対して活性を示すことが分かっています。

報告されている副作用には、悪心、嘔吐、トランスアミナーゼの上昇などがあります。腎障害で有毒な物質が蓄積していく可能性もあるため注意が必要です。

中等度または重度のCOVID-19に対するレムデシビルの有効性を評価するために、いくつかのランダム化試験が進行中で、国立衛生研究所(NIH)では2020年3月から臨床試験が始まっています。

重度の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)患者で68%が症状改善とのことで、効果がある可能性があります。ただ、まだ効果があるというにはデータが整っておらず、COVID-19に対するレムデシビルの臨床的影響は、まだ臨床試験を行っている段階に変わりはありません。今後の進展が期待されます。

古くからマラリアの治療薬として世界各国で使用されてきたヒドロキシクロロキンとリン酸クロロキン

薬剤名
一般名:ヒドロキシクロロキン
英語:Hydroxychloroquine
商品名:プラケニル

薬剤名
一般名:リン酸クロロキン
英語:Chloroquine phosphate

世界のさまざまな国でクロロキン製剤はマラリアの治療と予防や関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、皮膚のポルフィリン症の治療に使用されています。本邦ではクロロキン事件として網膜症が問題となったこともあり開発がすすめられていませんでしたが、近年承認されヒドロキシクロロキンが関節リウマチや全身性エリテマトーデスなどの膠原病に使用されています。

認容性は高いとされていますが、主な懸念される副作用としては、肝機能障害、腎機能障害や長期使用による心毒性(QT延長症候群、心筋症など)、網膜毒性などです。
これらの薬剤を使用する場合には、薬物毒性の可能性に十分注意する必要があります。

どちらの薬剤も、SARS-CoV、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)、および他のコロナウイルスに対してin vitro活性を示し、ヒドロキシクロロキンはクロロキンと比較してSARS-CoVに対するより強力な抗ウイルス活性を持っているようです。

中国での研究では、新型コロナウイルス患者においてクロロキン治療は臨床的およびウイルス学的に効果的であるとして、クロロキンは中国の国家健康委員会の治療ガイドラインに含まれており、疾患の進行の減少と症状の持続期間の減少に関連していると報告されていますが、詳細は不明です。

米国においてはFDAが、臨床試験への参加が不可能な場合、COVID-19で入院している患者にヒドロキシクロロキンやリン酸クロロキンの薬剤使用を許可する緊急使用許可を2020年3月末に発行しました。

それから1ヶ月もしないうちに各床試験において心毒性が問題となる副作用による死亡例が確認され、臨床試験が中止となった国もあります。高用量であるほどその危険性は高くなるとのことですが、低用量でもみられているようです。

使用する患者の選定と慎重な投与が必要で、慢性病(腎不全、肝疾患など)の患者や不整脈を引き起こす可能性のある薬物治療を受けている患者にこれらの薬剤を検討する場合は十分な注意が必要なのではないかと考えます。

現在も新型コロナウイルスの暴露前または暴露後の予防、軽度、中等度や重度のCOVID-19患者の治療に関する臨床試験が行われており、ヒドロキシクロロキンやリン酸クロロキンを評価する臨床データは限られています。新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対する効果は分かっていません。

ある小規模な研究では、ヒドロキシクロロキン単独またはアジスロマイシンとの併用により、上気道検体におけるSARS-CoV-2 RNAの検出が減少したが、臨床的利益は評価されなかったとの報告などもありますが、先ほどの心毒性を考えると不利益が多いのではないかと思ってしまいます。安全な投与が望まれます。

HIV治療薬 ロピナビル-リトナビル

薬剤名
一般名:ロピナビル-リトナビル
英語:Loponavir, Ritonavir
商品名:カレトラ

最近の主流の薬剤ではありませんが、HIV感染に使用されてきたこの複合プロテアーゼ阻害剤は、SARS-CoVに対してin vitroでの活性があり、動物研究ではMERS-CoVに対していくらかの活性があったようです。そのことから、 COVID-19の治療にも使用できる可能性があるとして使用されました。

しかし、重度のCOVID-19患者199人のランダム化試験では、28日で臨床的改善または死亡までの時間に差はありませんでした。この臨床試験では標準治療のみと、標準治療に加えて、ロピナビル-リトナビル(400/100 mg)を1日2回14日間投与したとのことです。

インターロイキン-6(IL-6)受容体阻害剤

薬剤名
一般名:トシリズマブ
英語:Tocilizumab
商品名:アクテムラ

薬剤名
一般名:サリルマブ
英語:Sarilumab
商品名:ケブザラ

インターロイキン6(IL-6)受容体阻害剤にはトシリズマブ(商品名:アクテムラ)やサリルマブ(商品名:ケブザラ)などがあります。どちらも関節リウマチなどに使用されている注射薬です。

IL-6の上昇を伴うサイトカイン放出症候群が、重度のCOVID-19の患者で報告されており、IL-6はCOVID-19で重篤または重症の患者の肺の過活動性炎症反応を促進する役割を果たす可能性があります。これらの薬剤がIL-6受容体に結合して遮断することにより、IL-6を阻害することで肺への炎症反応を和らげることが期待されているわけです。

中国の国家健康委員会の治療ガイドラインには、重度のCOVID-19でIL-6の上昇を伴う患者に対するIL-6阻害薬(トシリズマブ)が含まれていますが、データはあまりなく、事例報告で、トシリズマブの良好な結果が報告されている程度です。

喘息治療薬のシクレソニドの不思議な作用

薬剤名
一般名:シクレソニド
英語:Ciclesonide
商品名:オルベスコ

吸引するタイプのぜんそくの治療薬であるシクレソニド(商品名:オルベスコ)は、国立感染症研究所が多くの薬の候補を調べ、新型コロナウイルスに効く可能性があることを示しました。

一般的にマラリアやウイルス感染に不可欠であり、ヒトの正常な生理機能には必ずしも必要でない酵素の中にPAK1というものがあります。その異常な活性化は、癌、炎症、ウイルス感染、マラリア、免疫抑制、老化などのさまざまな疾患の原因となるといわれています。

PAK1を不活性化するPTENと呼ばれる腫瘍抑制ホスファターゼが、CCL(C-C motif ligand 2)によって誘発されるコロナウイルスの肺線維化を抑制することが報告されています。これはコロナウイルスが体に入る際に結合するコロナウイルス受容体(アンジオテンシン変換酵素2:ACE2の受容体)によって誘導されるシグナル伝達経路に依存します。この経路は具体的には、コロナウイルスがACE2受容体に結合するとPAK1が誘導され、PAK1がCCLを誘導、CCLにより肺の線維化がおこるというものです。症例報告では、感染早期〜中期の投与によるウイルスの早期陰性化や重症肺炎への進展防止効果が示唆されています。ただ、はっきりとした効果の確認はされておらず、検証中です。

 

その他にも、インターフェロン、回復期血清、ナファモスタット、カモスタットなど、さまざまな薬剤が有効である可能性があるとして効果の検証がされています。

 

 

最後に、対症療法として使用されるである薬剤に関してです。

ステロイド薬の使用に関して

WHOやCDCは、新型コロナウイルスの肺炎に対してのステロイド使用は慢性閉塞性肺疾患などの肺症状が増悪した場合などを除いては推奨さしていません。

ステロイドの使用により、以前流行したコロナウイルスであるMERS(中東呼吸器症候群)コロナウイルスではウイルスへの抵抗が弱まりウイルス排除が遅れ、インフルエンザウイルスでは死亡率が上昇するリスクがあったからです。

SARS(重症急性呼吸器症候群)においても短期および長期的な副作用が認められましたが、それを上回る効果ははっきりとしませんでした。

新型コロナウイルスでもそのような可能性があることから限定的な推奨とされています。

 

いかがでしたか?

緊急事態宣言がされてからしばらくたち、外は活気に欠け、寂しさを感じる光景が広がっています。もうすぐ5月に入りますが、状況が変わるようなニュースもなくうつ病患者が増えるのではないかと心配しております。コロナウイルスが広がる前の日々がとても恵まれていたと、今では感じることができます。人は失ったものに目を向けがちですが、今あるものに目を向け、日々を楽しんでいけたらと思います。

一日でも早いコロナウイルスの終息を願うばかりです。

皆様も健康にはくれぐれもお気をつけて。

手洗い、社会的距離、マスクで感染拡大防止。この3つを徹底していきましょう。

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