アセナピン(シクレスト)の特徴、使い方や注意点、作用機序について

抗精神病薬

アセナピン(シクレスト)はドパミン受容体、セロトニン受容体、アドレナリン受容体およびヒスタミン受容体に対する親和性が高く、ムスカリン受容体への親和性が非常に低いのが特徴です。

そのため、ムスカリン受容体遮断による副作用は起きにくく、陽性症状や陰性症状、認知機能、抑うつおよび不安症状に対する改善効果も示唆されています。

維持量から開始でき、統合失調症治療薬で唯一の舌下剤という特徴も持つアセナピン(シクレスト®)は錠剤の服用が難しい患者にも使用できる反面、錠剤よりも服用の手間があり、添加剤の関係で口内のしびれを感じたり、独特な味を感じたりすることで服薬アドヒアランス不良につながっている患者も見受けられるように思います。眠気が出やすいのもアドヒアランス不良につながることがあります。

そんなアセナピン(シクレスト®)についてお話していきます。

【基本情報】

効能・効果:統合失調症
用法・用量 1回5mg1日2回舌下
維持用量も1回5mg1日2回であり、維持用量から開始できる
最大用量1回10mg1日2回
※使用後10分間は飲食やハミガキ、うがいを避ける。

CP換算値:4~5

Tmax 1.25(5mg単回投与) 0.5(5mg反復投与)
半減期 17.1(5mg単回投与) 35.5(5mg反復投与)

腎機能による調整 なし
肝機能による調整 あり
食事の影響 あり
併用禁忌薬 あり
禁忌疾患等 あり

最大用量を超えての投与について

適宜増減となっていますが、最高用量以上に投与したとしても吸収されない(舌下からの吸収であり吸収に限界がある?)可能性が高く、最高用量以上の増量は効果が期待できません。

【作用機序】

セロトニン受容体の幅広いサブタイプ(5-HT1A、5-HT1B、5-HT2A、5-HT2B、5-HT2C、5-HT6、5-HT7)に加え、ドパミン受容体(D1、D2、D3)、アドレナリン受容体(α1A、α2A、α2B、α2C)やヒスタミン受容体(H1、H2)に対して高い親和性を示します。一方で、ムスカリン受容体やβ受容体への親和性は低いです。基本的には受容体に対して拮抗作用を示しますが、5-HT1A受容体に対しては刺激作用を有することが示唆されています。

評価のタイミング

血中濃度が定常状態となるまでに3日~4日かかることが半減期から予想されます。陽性症状に対してはすぐに効果が見受けられる場合もあります。

投与初期は薬剤への反応があるかどうかと副作用の確認を行い、1ヶ月程度は効果をじっくりと確認していきたいところです。

主な副作用と対策

主な副作用は傾眠、口の感覚鈍麻、眠気、アカシジア、錐体外路障害、体重増加、浮動性めまい

口の感覚鈍麻は添加剤の影響で服用後1程度で消失します。これが嫌で飲まないと言われた場合は服薬の継続はかなり難しくなってしまいます。

不眠に悩む患者も多く、寝る前に鎮静作用を利用し、この薬を飲むと眠れるという良い印象を持たせて服薬継続してもらうこともあります。この場合は、用法が1日2回ではなく1回となることもあります。基本的な用法からは逸脱していますが、反復投与の場合の半減期が28時間から36時間程度と長く、1日1回の投与でも効果は持続すると考えることもできます。

重大な副作用

悪性症候群、遅発性ジスキネジア、肝機能障害、ショック、アナフィラキシー、舌腫脹、咽頭浮腫
高血糖、糖尿病性ケトアシドーシス、糖尿病性昏睡、低血糖、横紋筋融解症
無顆粒球症、白血球減少、肺塞栓症、深部静脈血栓症、痙攣、麻痺性イレウス、腸管麻痺

離脱症状

急激に中止すると離脱症状が起こる可能性があるため、漸減中止が望ましいと考えられます。

腎機能による調整

種々の程度の腎機能障害者(非透析者)にアセナピン5 mgを単回舌下投与したとき、
腎機能障害者では腎機能正常者に比べてアセナピンのAUC0-∞は1. 03~1. 31倍であった。

腎機能による調整は特に必要ないと考えられます。

肝機能による調整

肝機能障害者(Child-Pugh分類A~C)にアセナピン5 mgを単回舌下投与したとき、
重度の肝機能障害者群(Child-Pugh分類C)では肝機能正常者群に比べてアセナピンのAUC0-∞が5. 5倍大きかったが、軽度もしくは中等度の肝機能障害者群(Child-Pugh分類A、B)では、肝機能正常者群と同様であった。

血漿蛋白非結合形のAUC0-∞は重度の肝機能障害者群では肝機能正常者群に比べて7. 7倍大きかったが、軽度もしくは中等度の肝機能障害者群では、肝機能正常者群と同様であった。

以上のことから重度の肝機能障害者群(Child-Pugh分類C)ではAUCの増加や血漿蛋白非結合形のAUCの増加率から投与は避けた方がよいのではないかと考えられます。添付文書でも禁忌とされています。

食事の影響

食事及び飲水の影響
健康成人にアセナピン5 mgを絶食時及び高脂肪朝食摂取直後に単回舌下投与したとき、絶食時に比べ高脂肪食摂取直後のアセナピンのAUC0-∞は21%減少した。また、投与4 時間後に食事を摂取したところ、アセナピンのAUC0-∞は13%減少した。健康成人にアセナピン10mgを1日1回舌下投与したとき、10分経過後に水を摂取しても薬物動態に影響を及ぼさなかった。一方、投与後5 分又は2 分時点で水を摂取したとき、アセナピンのAUC0-24hrがそれぞれ10%及び19%低下した。

舌下におくとすぐに溶解するので、完全に溶解して数分は口の中に含んでつばを飲み込みますが、上記の食事および飲水の影響からも分かるように、飲み込んだ後も10分は飲食や歯磨き、うがいを避けましょう。お薬の吸収が悪くなり、効果が弱くなってしまう可能性があります。

相互作用

主な代謝酵素:CYP1A2

CYP2D6を軽度に阻害します。
パロキセチンとの併用時は特に注意が必要です。アセナピン5mgを1日2回投与している場合では、パロキセチン単独投与の場合と比較してCmax及びAUCがそれぞれ82%及び92%増加したという報告があります。

併用禁忌
・バルビツール酸誘導体等の中枢神経抑制剤の強い影響下にある患者(中枢神経抑制作用が増強されるおそれがある。)

・アドレナリンを投与中の患者(アドレナリンをアナフィラキシーの救急治療に使用する場合を除く):アドレナリン(ボスミン)
アドレナリンの作用を逆転させ、重篤な血圧降下を起こすことがある。アドレナリン作動性α、β受容体の刺激剤であり、本剤のα受容体遮断作用によりβ受容体刺激作用が優位となり、血圧降下作用が増強されます。

禁忌疾患等

本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
昏睡状態の患者(昏睡状態を悪化させるおそれがある。)
重度の肝機能障害(Child-Pugh分類C)のある患者(血中濃度が上昇することがある。)

妊婦・授乳婦への影響

妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。妊娠中の投与に関する安全性は確立していない。

妊娠後期に抗精神病薬が投与されている場合、新生児に哺乳障害、傾眠、呼吸障害、振戦、筋緊
張低下、易刺激性等の離脱症状や錐体外路症状があらわれたとの報告がある。動物実験(ウサギ、ラット)では、生殖発生毒性試験において催奇形性は認められなかったが、着床後胚損失率・出生児死亡数の増加(ラット)、胎児・出生児の体重増加抑制(ウサギ、ラット)、出生児の身体・機能発達への影響(ラット)が認められた。

授乳中の婦人に投与する場合には、授乳を中止させること。

使用上の注意

・投与初期、再投与時、増量時にα交感神経遮断作用に基づく起立性低血圧があらわれることがあるので、患者の状態を慎重に観察し、低血圧症状があらわれた場合は減量する等対処する。QT延長にも注意。

・特に自殺企図の既往及び自殺念慮を有する患者では自殺念慮や自殺企図に注意が必要。

・高血糖や糖尿病の悪化があらわれ、糖尿病性ケトアシドーシス、糖尿病性昏睡に至ることがあるので、口渇、多飲、多尿、頻尿等の症状の発現に注意するとともに、低血糖があらわれることもあるので、脱力感、倦怠感、冷汗、振戦、傾眠、意識障害等の低血糖症状に注意し、血糖値の測定等の観察を十分に行う。

・眠気、注意力・集中力・反射運動能力等の低下が起こることがあるので、本剤投与中の患者には自動車の運転等危険を伴う機械の操作に従事させないよう注意すること。

・体重の変動(増加、減少)

、肺塞栓症、静脈血栓症等の血栓塞栓症にも注意不動状態、長期臥床、肥満、脱水状態等の危険因子を有する患者に投与する場合には注意すること。

指導のポイント

・服用方法
吸湿性であるため、使用直前に乾いた手でブリスターシートから取り出し、直ちに舌下に入れること。舌下の口腔粘膜から吸収される薬剤であり、飲み込まない。水に溶けやすい薬剤のため、濡れた手で触らないように注意しましょう。
割れやすいため、薬剤が割れてしまった場合は割れたものも舌下に入れていいです。
舌下に入れたあと10分間は食べる・飲むなど、水分を口の中に入れる行為はしない。
(投与後2分または5分で水を摂取した場合では、AUC(0~24hr)がそれぞれ19%および10%低下し、10分後と30分後では変化がなかったため、このようになっています)

・添加物に麻酔薬のようなものが含まれているため、口の中に違和感を感じられることが考えられるが、数時間すればもとに戻ることを説明。1時間程度でもどります。

病棟での管理ポイント

副作用のモニタリング
・悪性症候群:発熱、無動緘黙、強度の筋強剛、嚥下困難、頻脈、血圧の変動、発汗、白血球数増加、血清CK(CPK)上昇等の異常、ミオグロビン尿を伴う腎機能の低下
・遅発性ジスキネジア:口周部等の不随意運動
・肝機能障害:AST(GOT)、ALT(GPT)、γ-GTP、Al-Pの上昇等
・ショックやアナフィラキシー
・舌腫脹、咽頭浮腫
・高血糖、糖尿病性ケトアシドーシス、糖尿病性昏睡:口渇、多飲、多尿、頻尿等
・低血糖:脱力感、倦怠感、冷汗、振戦、傾眠、意識障害等
・横紋筋融解症:筋肉痛、脱力感、CK(CPK)上昇、血中や尿中のミオグロビン上昇等、横紋筋融解症による急性腎障害
・無顆粒球症、白血球減少
・肺塞栓症、深部静脈血栓症:息切れ、胸痛、四肢の疼痛、浮腫等
・痙攣
・麻痺性イレウス、腸管麻痺(食欲不振、悪心・嘔吐、著しい便秘、腹部の膨満あるいは弛緩及び腸内容物のうっ滞等の症状)

せん妄に対する使用

せん妄に対して使用されることもあります。舌下からの吸収で、実際は口腔内の粘膜であればどこからでも吸収されるのでせん妄が起きている患者でも意外と投与はしやすい薬剤ではないかと思います。使用の際には2.5mgで使用されることもありますが、あらかじめ半分に割らずに、使用直前に半分に割って使用します。