認知症の病態生理と薬物療法を周辺症状の治療も含めて解説

抗認知症薬

概要

認知症は脳の障害によって生じ、障害を受ける脳の部位が徐々に広がっていくことで症状が重くなっていく。認知症にはアルツハイマー型認知症、脳血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭葉型認知症などいくつかのタイプがあり、この中で最も多いのがアルツハイマー型認知症で約60%、次に多いのが脳血管性認知症で約20%となっている。
認知症最大の危険因子は加齢であり、本邦における65歳以上の有病率は約15%といわれ、生涯有病率では、がんとほぼ同じでおよそ2人に1人は認知症になるともいわれている。

症状

中核症状といわれる認知症の中心となる症状と、周辺症状(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia:BPSD)といわれる認知症における行動・心理症状の2つがある。
中核症状
記憶障害、見当識障害、実行機能障害、失語、失認、失行など
周辺症状(BPSD)
不眠、不安、抑うつ、焦燥、徘徊、易怒性、攻撃性、幻覚、妄想、せん妄など

 病態生理と症状

アルツハイマー型認知(Alzheimer’s dementia:ATD)
大脳皮質における神経細胞の脱落、老人斑と神経原線維変化の沈着を特徴とする疾患。老人斑はβアミロイド(Aβ42)が神経細胞外に沈着したもので、神経原線維変化はリン酸化されたタウタンパクが神経細胞内に蓄積したものである。発症するまでに20年ほどかかるといわれ、初期にはβアミロイドが脳内に蓄積し、さらにそれに伴いタウタンパクの過剰リン酸化が進み、蓄積されていく。これらは神経細胞毒性をもち、脳の細胞が減少する。アルツハイマー型認知症ではこのような病変が側頭葉内側の海馬から始まることが多いため、初期には記憶障害が目立つ。そして、病変が側頭葉、頭頂葉などへと進むにつれ次第に失語、失行、失認などが目立ち始める。
脳血管性認知症(Vascular dementia:VD)
脳梗塞、くも膜下出血などの脳出血など明らかな脳血管障害に起因して生じる認知症の総称。症状は初期には記憶力よりも意欲の低下、注意力の低下、うつ症状などが目立つことが多い。状態に波がみられ、急に泣いたり怒ったり、感情の起伏が激しくなることもある。歩行障害、構音障害、嚥下障害、片麻痺などを伴うことも多いが、出血などに起因しているため病巣部により症状はさまざまで、病巣部以外の場所の機能は比較的保たれていることが多い。
レビー小体型認知症(Dementia with Lewy Body:DLB)
αシヌクレインというタンパクが蓄積したレビー小体が大脳の神経細胞内にみられるのが特徴。黒質や青斑核にもパーキンソン病と同じようにレビー小体が認められるが、大脳皮質を中心に分布している。多くの場合、ATDにみられる老人班、神経原線維変化を伴っているが、その程度には差があり、ATDよりも病状の進行が早い。症状としては幻視、パーキンソン症状、認知機能の変動、便秘など。レビー小体型認知症とパーキンソン病経過中の認知症との区別は難しいが、幻視はレビー小体型認知症を疑う所見となる。
前頭側頭葉型認知症(frontotemporal dementia:FTD)
前頭葉や側頭葉に局限性の変性および萎縮が認められ、タウタンパクやTDP-43などの蓄積が原因とされる。前頭葉の中でも機能が低下した場所によって、言語、行動、感情表現、気分、考え方など、多方面に変化が生じ、自発性低下、常同行動、食行動異常などのさまざまな症状がみられる。しかし、最後まで記憶、空間認知機能は保たれる。また、50歳代など比較的若い年代に発症することも特徴。

薬物療法

認知機能障害に対する治療薬

・コリンエステラーゼ阻害薬(ChEI):ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン
無関心、精神病症状、情動不安定、脱抑制、異常行動などにも効果があるとされる。
・NMDA拮抗薬:メマンチン
攻撃性、興奮、行動障害などに対しても効果が認められる。
薬物療法開始後は患者の状態把握、介護者の観察内容確認、定期的なMMSEなどにより評価をしていく。
<薬物治療アルゴリズム>
ATDやDLBに対してはドネペジル、ガランタミン、リバスチグミンといったコリンエステラーゼ阻害薬(ChEI)が有効と考えられ、それぞれに有効性の違いはないとされる。また、NMDA受容体拮抗薬であるメマンチンが中等度以上のATDに対して有効とされており、ドネペジルとメマンチンの併用によるATDの認知機能などの改善効果の報告もある。基本的にはChEIもしくはメマンチンどちらか1剤から開始し、効果不十分な場合、副作用が見られた場合などは他の薬剤へ変更を行い、その後ChEIとメマンチンの併用も考慮していく。VaDに対しては有用性の報告もあるが一定の見解はない。FTDに対しても一定の見解がなく、どちらも積極的には推奨できない。投与の際は慎重に行う必要あり。
<薬剤中止を考慮するとき>
効果が認められない場合

不安に対する治療薬

・非定型抗精神病薬:リスペリドン、オランザピン、クエチアピン
過鎮静、低血圧、錐体外路症状などには注意。DLBでは抗精神病薬への過敏性があるため特に注意が必要。
ベンゾジアゼピン系薬は軽度の不安症状に対して、ときに有効である。しかし、認知機能低下、過鎮静、錯乱、脱抑制などの有害事象により推奨はされない。

焦燥・興奮に対する治療薬

・非定型抗精神病薬:リスペリドン、オランザピン、クエチアピン、アリピプラゾール
過鎮静、低血圧、錐体外路症状などには注意。DLBでは抗精神病薬への過敏性があるため特に注意が必要。
・抗てんかん薬:バルプロ酸ナトリウム、カルバマゼピン
有効性の報告があり、必要に応じて使用を考慮。
・脳循環改善薬:チアプリド
脳梗塞後後遺症に伴う攻撃行為、精神興奮、徘徊、せん妄の改善の効能を持つ薬剤であり、脳血管性認知症だけでなく、認知症の焦燥・興奮などに対しても効果が期待される。
・漢方薬:抑肝散、抑肝散加陳皮半夏
有効性の報告あり。漫然とした投与はあまり勧められない。

幻覚・妄想に対する治療薬

・非定型抗精神病薬:リスペリドン、オランザピン、アリピプラゾール、クエチアピン
過鎮静、低血圧、錐体外路症状などには注意。DLBでは抗精神病薬への過敏性があるため特に注意が必要。
・漢方薬:抑肝散、抑肝散加陳皮半夏、釣藤散
有効性の報告あり。釣藤散は脳血管性認知症に対して有効性ありとの報告。漫然とした投与はあまり勧められない。

うつ症状に対する治療薬

・セトロニン・ノルエピネフリン再取り込阻害薬
強く推奨されるものではなく、必要時に慎重投与。
・選択的セトロニン再取り込み阻害薬
強く推奨されるものではなく、必要時に慎重投与。十分なエビデンスはないがFTDの常同行動などの行動異常にも有効との報告あり。

※BPSDに対する治療薬は、全て適応外処方です。

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