リトナビル(ノービア)の特徴、使い方や注意点、作用機序や指導のポイントについて

HIV治療薬

抗HIV薬は作用機序によってヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤(NRTI)、非ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤(NNRTI)、プロテアーゼ阻害剤(PI)、インテグラーゼ阻害剤(INSTI)、侵入阻害剤に分類されます。

HIVの治療ではこれらの抗ウイルス薬を組み合わせて治療する抗レトロウイルス療法(ART)が治療の標準とされています。

リトナビルはプロテアーゼ阻害剤(PI)に分類され、HIVの初期治療の選択肢となりえる薬剤の一つですが、HIVガイドラインでは初期治療薬の中で「中等度の推奨」と少し弱いエビデンスレベルになっています。

近日話題のコロナウィルス重度感染者に対してリトナビルとタミフルの併用が行わたようです。結果としてはウイルスが消失したようですが、今後どのように使用されていくのかが気になるところです。(コロナウイルスへの使用は適応外です)

そんなリトナビルについて説明していきます。

【基本情報】

効能・効果:HIV感染症
用法・用量
維持量:1回600mg1日2回食後

開始用量と増量方法
初日は1回300mg1日2回、2日目と3日目は1回400mg1日2回
4日目は1回500mg1日2回、5日目以降は1回600mg1日2回となります。

また、必ず他の抗HIV薬と併用することとなっています。

Tmax:2~3hr
半減期:3.4~4.8hr

腎機能による調整:なし
肝機能による調整:あり
食事の影響:あり
併用禁忌薬:あり
禁忌疾患等:あり

【作用機序】

リトナビルはプロテアーゼ阻害剤(PI)といわれる分類のお薬です。

HIVの機能タンパクは複合タンパクとして産生され、HIV自身のプロテアーゼによって特定の部位で切断されてはじめて機能を発揮します。

プロテアーゼ阻害剤(PI)は、プロテアーゼの酵素活性部位に結合してその活性を消失させます。

プロテアーゼにより切断できなくなってしまったHIVの機能タンパクは機能せず、ウイルスは感染力を失います。

詳しくいうと、HIV-1及びHIV-2のプロテアーゼの活性を競合的に阻害し,HIVプロテアーゼによるgag-pol蛋白質前駆体の産生を抑制することで抗ウイルス作用を示します。

効果発現時期

半減期と漸増していく投与スケジュールからすれば、1週間程度で血中濃度は定常状態になると考えられます。

【主な副作用と対策】

承認時では主な副作用は悪心(33.9%)、下痢(25.4%)、異常感覚(19.5%)、嘔吐(14.4%)、口周囲感覚異常(12.7%)、肝機能異常(11.9%)、食欲不振(11.9%)、味覚倒錯(7.6%)、CK(CPK)上昇(5.9%)、倦怠感(5.1%)となっています。

血友病患者における出血事象が24.7%と高いことから、血友病患者ではとくに出血に注意が必要です。血液凝固因子を投与するなど適切な処置を行います。

再審査終了時では、主な副作用は高脂血症(9.2%)、悪心(7.7%)血、中ビリルビン増加(6.1%)、下痢(5.9%)、血中トリグリセリド増加(5.8%)となっています。

悪心嘔吐、下痢、脂質代謝異常、肝機能異常に注意が必要です。

重大な副作用

・錯乱,痙攣発作(痙攣:0.1%)
・脱水(頻度不明):下痢等に伴い,脱水,電解質異常
・高血糖(0.2%),糖尿病(0.8%):糖尿病の患者では悪化がないか注意しましょう
・肝炎(0.1%),肝不全(0.1%)
・過敏症(頻度不明):アナフィラキシー、蕁麻疹、皮疹、気管支痙攣、血管性浮腫を含む過敏症状
・中毒性表皮壊死融解症(Toxic Epidermal Necrolysis:TEN)、皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)(頻度不明)
・出血傾向(15.5%):本剤投与による治療中に,突発性の出血性関節症をはじめとする出血事象の増加が血友病患者で報告

腎機能による調整

特になし。ただし腎機能障害がある場合はコルヒチン併用が禁忌となる点には注意しましょう。

肝機能による調整

具体的な調整の目安はありませんが、肝機能障害のある患者ではリトナビルは主に肝臓で代謝されるため,高い血中濃度が持続するおそれがあるため注意しましょう。

食事の影響

食事はわずかにバイオアベイラビリティーを低下させます。

平均的な食事(857kcal,カロリーの31%が脂肪由来)や高脂肪食(907kcal,カロリーの52%が脂肪由来)の摂取後にリトナビルの錠剤100mg単回投与したところ,空腹時投与と比較してリトナビルのAUCとCmaxは平均20~23%低下した.

ただ、用法は食後ですので、食事をとらずに服用した場合、血中濃度が食後に服用しているときと比較して高くなるため、もしかしたら副作用が出たりすることもあるかもしれないなという程度です。特に食事とのタイミングは気にする必要はないと考えます。

相互作用

主な代謝酵素:CYP3A及びCYP2D6
CYP3Aと強い親和性を示し、他の薬剤(特にCYP3Aで代謝される薬剤)の代謝を競合的に
阻害して血中濃度を上昇させる可能性が高いので注意が必要です。連用により肝チトクロームP450の各種アイソザイムを誘導する可能性もあります。

併用禁忌

キニジン硫酸塩水和物(硫酸キニジン)
ベプリジル塩酸塩水和物(ベプリコール)
フレカイニド酢酸塩(タンボコール等)
プロパフェノン塩酸塩(プロノン等)
アミオダロン塩酸塩(アンカロン等)
ピモジド(オーラップ)
ピロキシカム(フェルデン等)
アンピロキシカム(フルカム等)
エルゴタミン酒石酸塩(クリアミン)
ジヒドロエルゴタミンメシル酸塩
エルゴメトリンマレイン酸塩(エルゴメトリン)
メチルエルゴメトリンマレイン酸塩(パルタン等)
エレトリプタン臭化水素酸塩(レルパックス)
バルデナフィル塩酸塩水和物(レビトラ)
シルデナフィルクエン酸塩(レバチオ)
タダラフィル(アドシルカ)
アゼルニジピン(カルブロック等)
リファブチン(ミコブティン)
ブロナンセリン(ロナセン)
リバーロキサバン(イグザレルト)
ロミタピドメシル酸塩(ジャクスタピッド)リトナビルにより代謝が競合的に阻害しされ、大幅に血中濃度を上昇させることが予測され、薬剤不整脈、血液障害、血管攣縮等、これら薬剤による重篤な又は生命に危険を及ぼすような事象が起こるおそれがあるので併用禁忌となっています。併用禁忌がこんなに多い薬剤も珍しいです。そして、まだまだ禁忌薬は続きます。
ジアゼパム(セルシン等)
クロラゼプ酸二カリウム(メンドン)
エスタゾラム(ユーロジン等)
フルラゼパム塩酸塩(ダルメート)
トリアゾラム(ハルシオン等)
ミダゾラム(ドルミカム等)こちらもCYPの競合的阻害により大幅に血中濃度が上昇し、過度の鎮静や呼吸抑制等が起こるおそれがあるので併用禁忌です。

リオシグアト(アデムパス)

ケトコナゾールとの併用によりリオシグアトの血中濃度が上昇し、クリアランスが低下したとの報告があります。そのため、リトナビルのCYP阻害作用とトランスポーター(P-gp、BCRP)阻害作用により同様の相互作用を発現するおそれがあり併用禁忌となっています。

ボリコナゾール(ブイフェンド等)

ボリコナゾールの血中濃度が低下したとの報告があるので併用しないこととされています。
リトナビルのCYP誘導作用によるものと考えられています。

コルヒチン(腎機能や肝機能に障害がある場合には併用禁忌)

※併用注意は多すぎるので省略します。

禁忌疾患等

・リトナビルの成分に対し過敏症の既往歴のある患者

・腎機能又は肝機能障害のある患者でコルヒチンを投与中の患者

妊婦・授乳婦への影響

妊婦、産婦、授乳婦等への投与

動物実験(ラット)で胎盤を通過して胎児へ移行することが報告されています。

妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には,治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与することと、定型文です。

ただ、米国疾病管理センター(CDC)はHIV伝播を避けるため、HIVに感染している女性は授乳を避けるよう勧告しているので授乳は行わない方が良いと考えます。

使用上の注意

・肝機能障害のある患者では高い血中濃度が持続するおそれがあるため注意
B型肝炎、C型肝炎、トランスアミナーゼの上昇を合併している患者では肝機能障害を増悪させるおそれもあります。

・血友病及び著しい出血傾向を有する患者
突発性の出血性関節症をはじめとする出血事象の増加が報告されていることから注意となっています。

・器質的心疾患及び心伝導障害(房室ブロック等)のある患者、PR間隔を延長させる薬剤(ベラパミル塩酸塩,アタザナビル硫酸塩等)を使用中の患者
軽度の無症候性PR間隔の延長が認められているため注意です。

健康成人45例に本剤400mgBIDを3日間(4回)投与したときのQTcF間隔変化の最大平均値(及び95%上限信頼限界値)は5.5(7.6)msecであった.QTcF間隔がベースラインから60msec以上変化したか500msecを超えた例はなかった.また,3日目において軽度のPR間隔延長が認められた.最大PR間隔は252msecであった.(カプセル剤)

・経口血液凝固阻止薬(ワルファリンカリウム等)、免疫抑制薬(シクロスポリン,タクロリムス水和物等)等治療域の狭い他の薬剤を併用する場合
チトクロームP450(CYP3A)に対する競合的阻害作用により,種々の薬剤との相互作用が報告されており、併用薬剤の血中濃度のモニターや診察の回数を増やすなど慎重に投与する。

・ AST(GOT)、ALT(GPT)、γ-GTP、CK(CPK)、尿酸、コレステロール、トリグリセリド等の上昇があらわれることがあるので、定期的に生化学的検査を行うなど観察を十分に行うこと。

・動物実験(ラット)で、網膜障害が認められているので定期的に眼科検査を行うなど観察を十分に行います。

・リトナビルを含む抗HIV薬の多剤併用療法を行った患者で、免疫再構築症候群が報告されているため、投与開始後、免疫機能が回復し、症候性のみならず無症候性日和見感染(マイコバクテリウムアビウムコンプレックス,サイトメガロウイルス,ニューモシスチス等によるもの)等に対する炎症反応が発現することがあります。また,免疫機能の回復に伴い自己免疫疾患(甲状腺機能亢進症,多発性筋炎,ギラン・バレー症候群,ブドウ膜炎等)が発現するとの報告があるので注意です。

指導のポイント

・用法用量

・HIV感染症の根治療法薬ではないため、日和見感染を含むHIV感染症の進展に伴う疾病を発症し続ける可能性があること

・お薬によって性的接触又は血液汚染等による他者へのHIV感染の危険を減少させることは明らかではないこと

・飲み合わせに注意する薬剤が非常に多いこともあり、服用中のすべての薬剤を確認し、新たに他の薬剤を服用する場合は相談するように指導

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