クエチアピンフマル酸塩徐放錠(ビプレッソ)の特徴、使用上の注意点、作用機序や指導のポイント

抗うつ薬

ビプレッソは統合失調症、双極性障害、うつ病などに使用されるクエチアピンフマル酸塩の徐放性製剤で、双極性障害のうつ症状の改善の適応のみ取得しています。

1日1回就寝前に服用し、クエチアピンと同様に糖尿病の患者、糖尿病の既往歴のある患者には禁忌です。効果発現には1週間程度の期間を要します。

ちなみに、ビプレッソという商品名は双極性障害およびうつ症状の英語表現の語感(それぞれBipolar Disorder及びDepression)を参考にした造語から名付けられたそうです。

【基本情報】

商品名:ビプレッソ徐放錠
英語表記(洋名):Bipresso Extended Release Tablets

効能・効果:双極性障害におけるうつ症状の改善
用法・用量
開始用量:1回50mg
増量の間隔は2日以上あけ、1回150mg、1回300mgと増量していく。

用法: 1日1回就寝前(食後2時間以上)

効果発現時期:1週間

腎機能による調整:なし
肝機能による調整:あり
食事の影響:あり
併用禁忌薬など:アドレナリン(アドレナリンをアナフィラキシーの救急治療に使用する場合を除く)、バルビツール酸誘導体等の中枢神経抑制剤の強い影響下にある患者
禁忌疾患:昏睡状態の患者、糖尿病の患者、糖尿病の既往歴のある患者

錠剤の分割や粉砕はできる?

徐放性製剤であるため、割ったり、砕いたり、すりつぶしたりしてはいけません。徐放性が失われてしまいます。

一包化は可能か?

詳細は下に示していますが、無包装試験や苛酷試験の結果より一包化は可能です。

無包装試験(条件:暗所で25℃、75%RH)において、6か月間規格の範囲内
苛酷試験(条件:@D65 蛍光ランプ 4000lx)において13日間、徐放錠150mgは変化なし、徐放錠50mgは規格範囲内(ビプレッソインタビューフォームより抜粋)

作用機序

セロトニン5-HT2A受容体、ドパミンD2受容体、その他のセロトニン、ドパミン、ヒスタミン及びアドレナリン受容体サブタイプに親和性があり、ドパミンD2受容体に比してセロトニン5-HT2A受容体に対する親和性が高い。代謝物ノルクエチアピンは5-HT1A受容体部分活性化作用及びノルエピネフリン取り込み阻害作用を持つとされています。

半減期や最高血中濃度到達時間は?

クエチアピン
Tmax 6hr(300mg反復投与)
半減期 6.5hr(300mg反復投与)

ノルクエチアピン(クエチアピンの代謝物)
Tmax 4hr(300mg反復投与)
半減期 26.6hr(300mg反復投与)

薬理作用からすると抗うつ効果が期待できるノルクエチアピンは半減期が長いですね。徐放錠になっているのでクエチアピンよりはクエチアピンの半減期は長いですが、作用時間にはものすごく大きな違いはないように思います。それにしても、代謝活性物であるノルクエチアピンの半減期は長いですね。

離脱症状は?

抗コリン作用をもつ薬剤であり、急な中止は離脱症状の出現リスクがあります。中止や減量の際は注意が必要です。不眠、悪心、頭痛、下痢、嘔吐などの症状がでたり、中止や減量後の体調変化が見られてつらい場合は相談しましょう。

【主な副作用と対策】

傾眠、口渇、倦怠感、体重増加、アカシジア、便秘、血中プロラクチン増加、めまい、頭痛、食欲亢進、口内乾燥

治療開始初期に起立性低血圧を起こすことがあるので、立ちくらみ、めまい等の低血圧症状が強い場合には減量等を考えます。

重大な副作用

・高血糖、糖尿病性ケトアシドーシス、糖尿病性昏睡
初期症状:口渇、多飲、多尿、頻尿など

・低血糖
初期症状:脱力感、倦怠感、冷汗、振戦、傾眠、意識障害など

・悪性症候群
初期症状:無動緘黙、筋強剛、嚥下困難、頻脈、血圧変動、発汗、発熱など

・横紋筋融解症
初期症状:筋肉痛、脱力感、CK上昇、血中や尿中ミオグロビン上昇など

・麻痺性イレウス
初期症状:食欲不振、悪心、嘔吐、著しい便秘、腹部膨満など

・肺塞栓症、深部静脈血栓症
初期症状:息切れ、胸痛、四肢の疼痛、浮腫など

・痙攣、無顆粒球症、白血球減少、肝機能障害、黄疸、遅発性ジスキネジア

初期症状に注意し、初期症状と思われる症状が見られた際は受診や相談が必要です。

【相互作用】

主な代謝酵素はCYP3A4です。

CYP3A4誘導作用を有する薬剤との併用では血中濃度低下の可能性があるため注意が必要です。

また、強いCYP3A4阻害作用を有する薬剤、CYP3A4阻害作用を有する薬剤との併用は血中濃度が上昇する可能性があります。

併用禁忌薬

アドレナリン(アドレナリンをアナフィラキシーの救急治療に使用する場合を除く)

禁忌疾患等

昏睡状態の患者

バルビツール酸誘導体等の中枢神経抑制剤の強い影響下にある患者

糖尿病の患者、糖尿病の既往歴のある患者

食事の影響

高脂肪食、低脂肪食ともにCmaxの増加(2倍程度)とAUCも若干増加がみられるため、食事との相互作用を避けるため食後2時間以上あけることとされています。

腎機能による調整

特に必要なし。

肝機能による調整

肝機能障害のある患者及び高齢者では、クリアランスが減少し血漿中濃度が上昇することがあるため、2 日以上の間隔をあけて患者の状態を観察しながら1 日50mgずつ慎重に増量。

妊婦・授乳婦への影響

妊婦への影響

FDA薬剤胎児危険度分類基準(FDA Pregnancy Category):C

オーストラリア基準:C

妊娠と薬 薬剤危険度:1点

成分であるクエチアピンは、非定型抗精神病薬の一つです。

妊娠後期に抗精神病薬を服用していた場合に、新生児で哺乳障害、傾眠、呼吸障害、振戦、筋緊張低下や錐体外路症状などが出現したとの報告はありますが、非定型抗精神病薬の奇形リスク増加は否定的とされています。いずれも大規模な研究によるものではありませんが、投与の継続は可能な薬剤であると考えます。ただ、投与の有用性に欠ける場合はやはり投与しない方が良いでしょう。

授乳婦への影響

添付文書では「授乳中の婦人に投与する場合には、授乳を中止させること。」となっていますが、クエチアピンの母乳中への移行は少量であり、乳児に有害事象は認められなかったとの報告がいくつかあり、通常量であれば授乳は可能であると考えられます。ただ、授乳に関するデータは少ないので、注意は必要です。

使用上の注意

自動車の運転等に関して

主に中枢神経系に作用して、眠気、注意力・集中力・反射運動能力等の低下が起こることがあるため、安全のためにも自動車の運転等危険を伴う機械の操作は行わない。

お薬の急激な減少や中止に関して

悪心、頭痛、下痢、嘔吐等の離脱症状があらわれることがあります。徐々に減量、中止が安全でしょう。

錠剤の分割について

徐放性製剤であるため、割ったり、砕いたり、すりつぶしたりしてはいけません。徐放性が失われてしまいます。

指導のポイント

・糖尿病やその既往がないかの確認
・1日1回寝る前に服用すること
・食事とは間隔をあける必要があること(2時間以上)
・錠剤を割ったり、かみ砕いたり、すりつぶしたりしないこと
・飲み始めに起立性低血圧(立ちくらみ、ふらつきなど)が生じることがあるので、注意するように。
・自動車などの運転は行わないようにすること
・離脱症状のリスクもあるので自己中断しない