既存治療によっても喘息症状をコントロールできない難治の患者に使える薬剤であるベンラリズマブ(ファセンラ)についてお話ししていきます。
高用量の吸入ステロイド薬(ICS)に長時間作用性β2刺激薬(LABA)やロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA)を加えても喘息のコントロールが不良の場合、さらに経口ステロイド薬(OCS)等が併用されている場合も少なくはないと思います。
重症喘息はしばしば増悪し、喘息突然死につながるおそれもあって、短時間作用性β2刺激薬及びOCSが頻繁に投与されている場合も見受けられます。こうなってくるとQOLの低下に加えて、OCS等による副作用も無視はできないでしょう。
このようなコントロール不良の重症喘息患者に対する、維持療法への追加薬剤が求められているのですが、そんな中、開発されたのがヒト化モノクローナル抗体製剤であるベンラリズマブ(ファンセラ)です。
インターロイキン-5の好酸球への作用抑制と血中好酸球、喀痰・気道中好酸球を除去することが示されており、喘息の病態において重要な役割をもつ好酸球を抑制し、直接的に除去する薬理作用も有することから、喘息症状の改善や喘息増悪の抑制につながることが期待されています。
臨床試験でも年間喘息増悪率、肺機能、喘息症状スコア等の改善、OCS使用量の減少が認められ、コントロール不良の重症好酸球性喘息患者に有用であることが示されました。
特徴
・ADCC (抗体依存性細胞傷害) 活性によりナチュラルキラー細胞が血中好酸球を直接的に除去
・血中好酸球だけでなく、喀痰や気道中の好酸球も除去
・喘息増悪の頻度を抑制し、呼吸機能も改善
・経口ステロイド薬 (OCS) 使用量を減少させ、さらに年間喘息増悪率も減少させたとの報告あり
・最初の3回を4週に1回、以降8週に1回皮下に注射するプレフィルドシリンジの皮下注射製剤
【基本情報】
効能・効果:気管支喘息 (既存治療によっても喘息症状をコントロールできない難治の患者に限る)
用法・用量:通常、成人にはベンラリズマブ (遺伝子組換え) として1回30 mgを、初回、4週後、8週後に皮下に注射し、以降、8週間隔で皮下に注射する。
腎機能による調整:なし
肝機能による調整:なし
食事の影響:なし
併用禁忌薬:なし
禁忌疾患:なし
注射剤というところを除けば、腎機能や肝機能、食事の影響をあまりうけず、禁忌疾患や併用禁忌薬がないのは使いやすいですね。
【作用機序】
ベンラリズマブは、ヒトインターロイキン-5受容体αサブユニット (IL-5Rα) に対するフコース欠損型ヒト化免疫グロブリンGサブクラス1、κ型アイソタイプ (IgG1κ) モノクローナル抗体であるため、好酸球及び好塩基球の細胞表面に特異的に発現しているヒトIL-5Rαに特異的かつ高親和性で結合することで、IL-5の好酸球に対する作用を抑制する。
ベンラリズマブはFcドメインのフコースを欠損しているため、ナチュラルキラー (NK) 細胞等のエフェクター細胞上に発現するFcγ受容体 (FcγR) であるヒトFcγRIIIa (CD16a) に対して高い親和性を示し、抗体依存性細胞傷害 (ADCC) 活性が増強され、細胞毒性を有するメディエーター (perforin、proteases、granzyme) を放出し、IL-5Rαを発現する好酸球及び好塩基球のアポトーシスが誘導される。
まず、喘息は好酸球性、好中球性、混合顆粒球性(好酸球性及び好中球性の混合型)及び非顆粒球性型の4つのフェノタイプに分類されていて、好酸球性喘息は気道中の好酸球の増加が特徴だ。
好酸球は気道に炎症をおこして、喘息へ悪影響となります。喘息の重症度の上昇、突然死の増加、肺機能の低下などに関わっていると考えられていて、その好酸球の生体内での分化、遊走及び生存に重要な役割を果たすサイトカインがインターロイキン-5(IL-5)です。
ベンラシズマブはIL-5の好酸球の細胞表面にあるIL-5受容体のαサブユニットといわれる部分に特異的に結合することで、IL-5の好酸球への作用を抑制します。
さらに、ナチュラルキラー細胞 (NK細胞)を誘導し、ADCC活性 (抗体依存性細胞傷害活性) を介して直接的に血中好酸球だけでなく喀痰や気道中好酸球も除去するわけです。
【主な副作用と対策】
注射部位反応(疼痛、紅斑、そう痒感、丘疹等)や頭痛が起こる可能性があります。
また、過敏症反応は本剤投与後数時間以内に発現することが多いが、遅発することもあるため注意しないといけません。
発現した場合は医療機関にかかるなどし、適切な処置を行うことが重要です。
【相互作用】
Tmax 7day (25mg単回)
半減期 15.6day(25mg単回)
代謝
抗体製剤であるため、肝臓以外にも広く生体に存在するタンパク質分解機構により消失すると推定されています。
そのため、腎機能や肝機能による用量調整は基本的にする必要はないと考えられます。
食事の影響は皮下注のため、ないです。
妊婦・授乳婦への影響
妊婦への影響
妊娠中の投与に関する安全性は確立していないので、妊娠中は投与を避けることが望ましい。
妊婦又は妊娠している可能性のある女性には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合のみ投与を考慮すること。
添付文書に決まり文句が書いてあります。現時点ではその他の情報も乏しく、薬学的には判断できません。
授乳婦への影響
授乳婦も同様の決まり文句が添付文書に書かれています。現時点ではその他の情報も乏しく、薬学的には判断できません。
使用上の注意
難治の場合のみ使用できるコントロール薬
高用量の吸入ステロイド薬とその他の長期管理薬を併用しても、全身性ステロイド薬の投与等が必要な喘息増悪をきたすような場合に追加して投与することができます。
速やかに抗酸球を抑制、除去するとされていますが、喘息発作や症状を速やかに軽減させるような発作治療薬では決してありません。
つまり、ICSに加えてその他の長期管理薬 (LABA、ロイコトリエン受容体拮抗薬 (LTRA) 、テオフィリン徐放製剤、長時間作用性抗コリン薬 (LAMA) 、OCS、抗IgE抗体等) による治療を併用しても喘息増悪をきたす場合が治療対象となりえるわけです。
さらに、抗酸球を抑制、除去するという作用から、好酸球性炎症を伴う重症喘息患者に対して、既存の治療と併用することで血中好酸球数を減少させて、効果が認められる長期管理薬です。
投与前の血中好酸球数が多いほど気管支喘息増悪発現に対する抑制効果が大きい傾向が認められていて、投与前の血中好酸球数が少ない患者では、十分な気管支喘息増悪抑制効果が得られない可能性があると考えられます。
投与前の血中好酸球数と有効性の関係を十分に理解し、患者の血中好酸球数を考慮した上で、適応患者の選択を行う必要があるでしょう。
長期投与ステロイド薬の減量
ベンラリズマブの投与により、ステロイドを減量することも可能と考えられますが、減量による症状の悪化がないように徐々に減量することが必要です。
蠕虫感染症
好酸球は一部の寄生虫 (蠕虫) 感染に対する免疫応答に関与している可能性があるとのことで、既に寄生虫 (蠕虫) に感染している患者には、投与開始前に寄生虫 (蠕虫) 感染を治療することとされています。また、投与中に寄生虫 (蠕虫) に感染し、抗寄生虫薬による治療が無効な場合には、投与を一時中止することを考慮することとされています。
投与の際の注意点
投与経路は皮下投与であること。疼痛緩和のためにも、投与時には投与30分前に冷蔵庫から取り出し、外箱に入れたままの状態で室温に戻しておくこと良いでしょう。
投与部位は、上腕部、大腿部又は腹部です。同じ場所へ繰り返し注射するのは避けて、投与毎に注射部位を変えましょう。
皮膚に圧痛、挫傷、紅斑、硬化がある部位には使用しないでください。
室温に戻した後使うのを忘れてしまった
24時間以内であれば投与可能です。使用しなかった場合は廃棄です。
薬剤の管理方法
激しく振とうしないこと。凍結を避けて2~8℃に保存し、光を避けるため外箱に入れて保存しましょう。
凍結させてしまった場合は使わないようにしましょう。