過活動膀胱の患者で高齢者の場合、抗コリン作用のある薬剤を使用すると認知機能の低下が見られたりする場合もありますが、そういったケースに選択肢として考えやすいのが、選択的β3アドレナリン受容体作動性過活動膀胱治療剤ではないでしょうか。
ベビグロン(ベオーバ)は選択的β3アドレナリン受容体作動性過活動膀胱治療剤としてはミラベクロン(ベタニス)に次ぐ2剤目です。
β3アドレナリン受容体を選択的に刺激し、膀胱平滑筋を弛緩させることで膀胱容量を増大させ、過活動膀胱における尿意切迫感、頻尿、切迫性尿失禁に対して有効性を発揮すると考えられています。QOLの指標となったキング健康調査票の全ての項目を改善し、長期的な効果も期待されています。
1日1回投与で有効性を示すのも特徴です。
主な副作用は、口内乾燥、便秘、尿路感染(膀胱炎 等)、残尿量増加、肝機能異常、CK(CPK)上昇、重大な副作用として尿閉の報告がある点は注意が必要でしょう。
そんなベビグロン(ベオーバ)について解説していきます。
【基本情報】
効能・効果:過活動膀胱における尿意切迫感、頻尿及び切迫性尿失禁
用法・用量:50mg1日1回食後
Tmax 1.0hr(50mg単回投与)
半減期 68.9hr(50mg単回投与)
腎機能による調整:なし
肝機能による調整:なし
食事の影響:なし
併用禁忌薬:なし
禁忌疾患等:なし
味:人によっては、苦みを感じる。
粉砕できる?
結果から言うと、有効成分の各種条件下における安定性からビベグロン錠の粉砕は可能と考えられます。(参考資料:ベオーバ錠インタビューフォーム)
まず、粉砕しても良い剤型かどうかというところで、ベオーバ錠は即放性のフィルムコーティング錠であり粉砕しても問題ない剤型です。
また、光に暴露した場合に類縁物質が増加しているものの、その他の暗所でのデータは規格内であり大きな変化は認められていません。
以上のことから、高温多湿にならない場所で、暗所であれば粉砕後の安定性も保たれると考えられますので、ベオーバ錠の粉砕は可能と判断しました。
一包化できる?
一包化は可能です。
上記の粉砕に関する考察からも、一包化が可能なのは明らかですが、製剤の安定性のデータもあります。光暴露で無包装でも規格内なので、一包化は可能と考えます。
【作用機序】
膀胱平滑筋に存在するβ3アドレナリン受容体を選択的に刺激し、膀胱を弛緩させることで蓄尿機能を亢進し、過活動膀胱における尿意切迫感、頻尿、切迫性尿失禁を改善します。
効果の評価時期
半減期が68.9hrであることから、血中濃度が定常状態に達するまでには2週間程度かかります。
評価の時期としては定常状態に達すると考えられる2週間までは主に副作用評価を行い、尿路症状の評価は4週間程度服用後に評価するのが望ましいと思います。ちなみに臨床試験では8週や12週経過後で評価されていて、4週経過と大差の無い項目から8週や12週経過してさらに効果を示している項目もあります。
血中濃度が定常状態となるのに2週間程度かかることや臨床試験の結果から、即効性のある薬剤ではないので、すぐに効かないと諦めるのではなくじっくりと評価していく必要があるでしょう。
【主な副作用と対策】
主な副作用は便秘、口内乾燥、残尿量増加、尿路感染(膀胱炎等)などがあります。
便秘の場合は程度に応じて便秘治療薬の使用を行うもしくは中止、口内乾燥の場合も程度に応じて中止を考慮などの対応を行います。
腎機能による調整
具体的な腎機能に伴う調節は記載がありませんが、下記のデータから注意は必要です。
ビベグロン100mgを単回経口投与したときのCmax及びAUCinfを健康成人と比べると、軽度の腎機能障害者(eGFR 90~60mL/min/1.73m2)ではそれぞれ1.96及び1.49倍、中等度の腎機能障害者(eGFR 60~30mL/min/1.73m2)ではそれぞれ1.68及び2.06倍、高度の腎機能障害者(eGFR30mL/min/1.73m2未満)ではそれぞれ1.42及び1.83倍でした(外国人データ)。
肝機能による調整
下記のデータのように中等度の肝機能障害のデータはありますが、高度の肝機能障害でのデータはありません。高度の肝機能障害のある患者では、ビベグロンの血漿中濃度が上昇するおそれがあるため注意が必要です。
健康成人(正常な肝機能を有する被験者)と中等度の肝機能障害(Child-Pughスコアが7点~9点)を有する男女(外国人)8例にビベグロン100mg注)を単回経口投与したときのCmax及びAUCinfを健康成人と比べると、中等度の肝機能障害者ではそれぞれ1.35及び1.27倍でした。
食事の影響
ベオーバ錠の承認されている用法は「食後に経口投与」するとなっています。食事の影響はありともなしともいいきれません。承認されている通りに服薬するのがもちろん良いですが、空腹時だからと服薬しないのもおすすめはできません。毎日空腹時でなければ、一時的な血中濃度の上昇であり大きな影響はないと考えます。
健康成人男性8例にビベグロン50mgを単回経口投与したとき、空腹時に投与したときのCmax及びAUCinfは、食後に投与したときに比べ、それぞれ1.73及び1.40倍と影響が認められましたが、tmax及びt1/2に影響は認められませんでした。
相互作用
主な代謝酵素:CYP3A4
P-糖タンパク(P-gp)の基質でもあります。
併用禁忌
なし
併用注意
ケトコナゾールと併用したとき、ビベグロンの血中濃度が上昇したとの報告がある。CYP3A4及びP-gpを阻害する薬物と併用することにより、ビベグロンの血中濃度が上昇する可能性がある。
このような報告があるため、下記の薬剤は併用注意となっています。
CYP3A4及びP-gpを阻害する薬物
アゾール系抗真菌剤:イトラコナゾール等
HIVプロテアーゼ阻害剤:リトナビル等
これらの薬物との併用により、ビベグロンの血中濃度が上昇する可能性があります。
CYP3A4及びP-gpを誘導する薬物
リファンピシン
フェニトイン
カルバマゼピン
これらの薬物との併用により、ビベグロンの血中濃度が低下し、作用が減弱する可能性があります。
禁忌疾患等
なし
妊婦・授乳婦への影響
妊婦への影響
妊婦又は妊娠している可能性のある女性には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。動物実験(ラット)において胎児への移行が報告されている。
授乳婦への影響
治療上の有益性及び母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続又は中止を検討すること。動物実験(ラット)において乳汁中に移行することが報告されている。
どちらも 決まり文句です。
使用上の注意
・過活動膀胱診療ガイドライン2)では、前立腺肥大症は、過活動膀胱よりも原疾患の治療を優先すべきものとして位置づけられており、前立腺肥大症に合併する男性の過活動膀胱に対しては、α1遮断薬を中心とした薬物治療が推奨され、初期治療としてα1遮断薬をまず投与する旨が記載されています。
・重篤な心疾患のある患者では心拍数増加等により、症状が悪化するおそれがあります
・高度の肝機能障害のある患者のデータはなく血中濃度が上昇するおそれがあります
・収縮期血圧に対する影響
本態性又は特発性高血圧を有する成人男性及び女性患者(外国人)26例を対象にビベグロン100mgとメトプロロール(β遮断薬)又はアムロジピン(血管拡張薬)を1日1回7日間反復経口併用投与したときの忍容性は良好であり、収縮期血圧に臨床的に意味のある変化はもたらさなかった。
降圧薬服用中でも問題ないと思われます。
指導のポイント
・用法用量の説明:50mg1日1回食後
・副作用の確認(口渇、便秘など)